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イノーを呼んでくれ [今詩]

 イノーを呼んでくれ

誰も来なくなった三階建て
吹き抜けのホールの底で重苦しく
「イノーを呼んでくれ」の声が蠢き廻る
時に息遣いは螺旋階段を登ろうとするけれど
決して最上階に辿り着くことは無く
何時の間にかホールの底でしゃがみ込む

もうイノーは床の染みでしかないにしても
そこから沸々と立ち昇る香気は未だ肉声を保持している

そしてどでかい水槽の裏板を外せば島への砂州が続く
身寄りの無い言葉は交わることも無く外洋の無口へと導かれるだろう

一体この屋敷を売らねばならぬ理由が有るのだろうか
たとえ跡形も無くイノーの痕跡が失われたとしてもだ
この屋敷に関して誰も一人称の意志を語るべきでは無いのに

こんな脆い地盤の上に屋敷を建てたのもイノーの願いなのだ
皮肉屋は忘れられることにこだわっていた
更地になったこの場所で他愛のない親子が
「良い景色だね」なんぞ話していたら
もう大喜びだろう

でも未だ誰かがイノーを呼んでいる
執拗に呼んでいる

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胸苦しい朝の夢 [過去詩]

 胸苦しい朝の夢

ある朝目覚めたら
隣で寝ている筈の
春ちゃんが居なくて
オイラとても慌てた
一体これは
どうした事なんだろうと訝りながら
押入れまでも探したけどやっぱり居ない

つらつら考えるに
オイラの春ちゃんは
甲斐性の無いオイラに
つくづく呆れ果て
着の身着のまま
逃げるように始発のバスに
憮然とした顔で乗り込んだに違いあるまい

尽くし尽くして
ツクツクボウシの
泣きも入ってからに
救われる時も無い
だからあの時
あの場所でアタシの事
捨ててくれれば良かったと言ってるような気がした

茫然自失
その場に座り込み
目頭も熱くなって
小さく名前を呼ぶ
その時思いも掛けず
頭の上から
「今呼んだー」の声
嗚呼これも夢だったのか
胸苦しい朝の

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ピンポンジャック [今詩]

 「ピンポンジャック」

月の光で
尚更青ざめた君が
このちっぽけな街を
ピンポンダッシュして
駆け抜けるなんて
毎度の事ながら愚かなことだ
本当に君が押したいインターフォンは
ルリーの家だけだってことは知っているさ

君の動きに連動する放火魔が居るから気を付けろ
福音青年団のリーダーで淡々居士だった君が
此れってどう考えても無鉄砲だ

誰かの溜め息から放たれた小人たちが居て
君に悪さをしているに違いない
連なった小人たちの質量は思いの外にズシンとばかり来て
経典の表紙の上に鎮座しているのだろう

明日「月瀬の園」で会おう
きっと何時か君を裏切ってしまうだろうって事を
素直に言うつもりさ

兎に角無駄の事は止めよう
ルーリーの家ばかりじゃ無い
何処の家のインターフォンも電池が抜かれている
・ ・・・・僕の家以外は・・・ね

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ホワイトノイズ [過去詩]

 「ホワイトノイズ」

庭のホワイトノイズ君にも聞こえるかなあ
行き違う想いの全て無数の毛玉となって
スパークすれば君も僕も押し黙る

君の姿が今しもブロンズみたいに固まり
その内に鳩が来て肩先に止まるかもね
黄金色に秋の日差し深まる中で

もう直ぐ帰りの時間だ収まりもつかず
ひとしきり口喧嘩のあと涙をペロリ
舌で掬うもなかなかによろしくて

庭のホワイトノイズ君にも聞こえるかなあ
機嫌を直して帰る君の後姿
ほろ苦に飲み下し僕は未だ庭に居る

庭のホワイトノイズ君にも聞こえるかなあ
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トロピカル [過去詩]

 「トロピカル」

ホッとしたいね
君と二人の
あの場所で
目を瞑り
風だけを聴いて
夢と現の間を
行きつ戻りつしながら

背中に指で
書かれた言葉
少し気に為りながら
余裕こいて
無視することにした
当たり前だよそんな事
言わなくてもいいよ

足の先がそっと触れる
ゆらめく陽炎
蓋も出来ない
切ない思いに
君が寄せ来る波と為り
瞼ひくひくするよ

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紫の帳(認知を得ず) [過去詩]

 紫の帳(認知を得ず)

晴れ間も無い
空を見上げつ
口笛細く
吹き募る

日溜まりの中で
老い狂う
愛しき故の
ささくれが
反り返り
血の滲む程に

夢から覚めての
うつつが怖い
夢見る人の
うつつもまた夢

上気した額に
甦る
小さな記憶の
意地悪が
紫の帳の中で
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 [過去詩]

 「鶫」

背を反らし春の空
思い切り仰ぎ見る
1羽のツグミ
何を思い
言葉閉ざす
目を閉じて地を突付き
時の痛みもジリジリと
闇が押し寄せ
人も去り
やがて風に溶ける

叶わぬ思いが有り
夢見る自由が有る
落ちの一つも無い
芝居も引けて
夕暮れは気儘に
思い出を啄ばむ
それで良い
それで良いと口ずさみながら

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猫得 [今詩]

 「猫得」

今日はいっぱい猫孝行しよう
チロルが好きな海の匂いのするブーツを
思い切りクンクンさせてやろう
勿論リンの大好きなブラッシングも・・・ね

空気を読み過ぎて
ヘロヘロになったこの1週間がやっと終わった
今日は猫たちの無作法な空気だけを
身にまとっていよう

ねえチロル
もう直ぐ坂の上から修道院長が降りて来て
不機嫌そうな一瞥を投げて来ると思うけど
決して「シャーッ!」はしないでよ
だって僕は彼にちょっとだけ借りが有るからね

一度だけ告解に訪れた時
あの気取った赤い房の付いた靴の中に
クワガタを仕込んでやったのを覚えているだろう

平凡極まる話だけど
猫たちの肉球は
抗い難い記憶みたいなものだし
こいつを弄ぼうとする僕の指に
至上の優しさで甘噛みするリンが愛おし過ぎる

そして考えたくも無い修道院長のことなのだが
日増しに壊れて行く気がするのだ
その隆起した背中をチロルが恐れているのは間違い無いことだ

あの日彼が
「君は猫で得をしているのだよ」と
看破したように言い放ったのを
僕とチロルとリンは不満そうに聞いていたんだ

もうそこまで修道院長の靴音が近付いて来ている
またしても僕は二猫のバリアーの中で安全を確認している
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誰もがネエ [過去詩]

「誰もがネエ」

誰もがネエ
一人だよね
塞ぎの虫に
なりながら朝を待つ
一人なんだよね

誰よりも
一人だよネエ
覚束なさに
眼の奥が揺れて困る
一人なんだよね

今宵また
ツレナキ星の
後追いながら
薄青く笑みして帰る
一人なんだよね

泣きながら
椅子を揺らす
気も触れる前に
鬼灯(ホオズキ)を噛み締める
一人なんだよね

そして今
仮借なき
あやかしの海に
呑まれては明日を待つ
一人なんだよね

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満月の夜は眠れない [過去詩]

「満月の夜は眠れない」

満月の夜は眠れない
何時もそうだよ
眠れない

枕の上をゆっくり巡り
冷たい吐息が
零れ落つ

君が立てる
寝息すらも
今夜は少し耳障り

特に何って血が騒ぐ
そんな出来事も
有りはしない

なのにやたらと汗をかき
夜通し鳴いてる
セミが恨めしい

君にチョッカイ
出したい気持ちを
寸での所で
抑えつつ

満月の夜は眠れない
何時もそうだよ
今夜もまた
20190519エナガ2.JPG
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